東京高等裁判所 昭和39年(ラ)161号 決定 1964年5月11日
抗告人 清水武夫
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨は原決定の取消並びに訴訟救助の裁判を求めるものと解せられ、その理由は別紙<省略>記載のとおりである。
よつて考えるに、記録編綴の訴状その他抗告人提出の書面によると、抗告人の訴の要旨は、抗告人は高橋定一に対し二十五万円の債権を有していたが、同人が急死しその相続人である本件被告高橋剛は支払能力がないというので、抗告人は昭和二十五年九月被告より五万円を受取り二十万円を棒引した、しかるに被告は同年七月多額の現金を入手しており当時十分な支払能力を有していたことが後に至り判明したので、結局被告は右の事実を隠蔽して抗告人を欺罔し抗告人に債務を棒引させたものである、従つて被告は不当利得の結果抗告人に損害を与えたものであるが、もし被告が当時右債務を完済していれば、抗告人は東京都大田区内に現在の時価で二千万円相当の土地を取得することができ、また同じく四百三十万円相当の家屋を失わずにすんだ筈であるから、被告に対し二千三十万円の支払を求めるというのであつて、その請求の原因は甚だ不明確であるけれども、不当利得の返還ないし債務不履行又は不法行為による損害の賠償を求めるものと解せられる。しかし、右の如き主張によつては被告が抗告人主張の不動産の時価相当の金額を利得したと解する余地は全くないし、また民法第四百十九条の規定に徴すれば同様の金額の損害賠償を求め得ないことも極めて明らかである。
もつとも今後の請求の変更、釈明及び立証の如何によつては二十万円及びこれに対する民事法定利率による金員の支払を求める限度においては、抗告人の請求が認容される余地が全くないとはいえないけれども、二千三十万円もの多額の請求中僅か二十万円につき勝訴の見込があるにすぎないような場合は、民事訴訟法第百十八条にいう「勝訴の見込なきに非ざるとき」には該当しないものと解するのが相当であるから、本件申立はこの点において救助の要件を具備しないものといわなければならない。
よつて抗告人の本件救助の申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものと認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 牛山要 岡松行雄 今村三郎)